1 FOR ALL JAPAN 廃炉のいま、あした

1Fを守る仲間たち

株式会社エイブル

2019年2月25日

INTERVIEW 56 新しい工法で排気筒の解体に挑む

岡井勇さん岡井おかい いさむさん
株式会社エイブル
取締役 工事本部 第一工事部長
佐藤哲男佐藤さとう 哲男てつおさん
株式会社エイブル
工事本部 第一工事部 課長
中根瑞貴さん中根なかね 瑞貴みずきさん
株式会社エイブル
第一工事部

 1Fの1・2号機の排気筒はいきとうは、耐震上の裕度を確保し、リスクを低減させるため、2019年5月から上部半分の解体工事を開始する予定です。排気筒はいきとうの高さは120m。この難しい工事に取り組んでいるのが、エイブルです。エイブルは、震災しんさいともない本社機能を大熊町から広野町に移し、廃炉はいろの様々なプロジェクトに関わっています。実作業に向けた準備が進む中、エイブルの3人のみなさんにお話をうかがいました。

クレーンで解体装置かいたいそうちり上げ
ロボットを遠隔操作えんかくそうさする新工法

エイブルでは、どのようなお仕事をしているのですか。
岡井勇さん

岡井さん:

 私たちは震災しんさい以前から1F内での設備メンテナンス、他の発電所での建設や改修工事などにたずさわってきました。震災しんさい後は、廃炉はいろに向けた様々な工事や設備運用などの業務も行っています。現在進行中の大きなプロジェクトとしては、1・2号機の排気筒解体工事はいきとうかいたいこうじがあります。排気筒はいきとうの高さは120mですが、上部の約60m分を解体するという工事です。2017年から工事の実現性検討けんとうを始めて、遠隔装置えんかくそうちの開発、モックアップなどを進めており、2019年5月ごろから1F現地での解体作業に移行する予定です。

佐藤さん:

 排気筒はいきとう周辺は線量が高く、人が入って作業することができません。そこで、クレーンでり上げた解体装置かいたいそうちを採用しました。解体装置かいたいそうちには複数のロボットがついていて、そのロボットを遠隔操作えんかくそうさして排気筒はいきとうや周辺の構造物を頂部ちょうぶから順に切断し、少しずつ地面に下ろしていく。そんな工事になります。

とうのような構造物を、クレーンを使って上から解体するというのは、あまり聞いたことがありません。

岡井さん:

 同じような工法の実績がある会社はないかと思い、全国の解体事業者などに問い合わせました。しかし、クレーンで解体装置そうちり上げて遠隔操作えんかくそうさするという工法は、どの事業者も試したことがないとのこと。少なくともこれほどの規模きぼの工事では、日本初の工法といえるでしょう。そこで、現地での解体工事に入る前に、当社の広野事業所内にモックアップ施設しせつを用意し、トレーニングを重ねています。あわせて、部材の支持や切断などに用いるロボットの開発も進めています。国内外のメーカーの標準的なロボットでは足りないところがあるので、それを解体作業用にカスタマイズします。経験したことのないプロジェクトなので、試行錯誤さくごの連続です。

大学教授にも協力をあお
専門せんもん的知見を集めて課題を解決

どのような工夫で困難こんなんを乗りえたのですか。
佐藤哲男さん

佐藤さん:

 例えば、切断するときに発生するけずりクズ、いわゆる「切子」の回収かいしゅうです。今回のプロジェクトでは、排気筒はいきとうの内側から「チップソー」とばれる円盤型えんばんがたのこぎりを入れて切断します。その際に、たくさんの切子が発生します。これを回収かいしゅうするためのボックスを用意したのですが、チップソーを回転させるモーターに切子がはさまって止まってしまいました。そこで、モーターを守るカバーを取り付けたのですが、そうすると熱がこもって止まってしまう。何度も改良をり返して、ようやく期待通りのボックスができました。また、チップソーについても、何度もテストして最適なものを選びました。

岡井さん:

 ときには予想外のことが起きたり、かべにぶつかったりすることもあります。そこで、大学教授にもご協力をあおいで、できるだけ幅広はばひろい知見を集めるよう心掛こころがけました。

今回のプロジェクトで、みなさんはどのような役割やくわりになっているのですか。
中根瑞貴さん

岡井さん:

 プロジェクトを統括とうかつする責任者です。東京電力と話をして、「こんな工法を使えばうまくできる」といった提案をする。特に初期段階だんかいでは、そうしたやりとりが多かったですね。

佐藤さん:

 私はプロジェクトリーダーです。プロジェクト現場は設計や技術開発、電気、工事など分野ごとにグループ分けしていますが、これらを取りまとめて全体をゴールに導くことが求められています。

中根さん:

 私は2018年4月に入社しました。当初はロボット製作のグループに配属され、現在ではモックアップ作業の記録作成や工事の進捗しんちょく管理などを担当たんとうしています。社会人になってから日が浅いのですが、日々の仕事の中で感じたのはコミュニケーションがとても大事だということ。そこで、グループ間の横の連携れんけい、そしてたて連携れんけいを意識して仕事をしています。

「不可能を可能に!」を合言葉に
困難こんなんなプロジェクトにいどみ続ける

エイブルのカルチャーや強みについてお聞きします。

排気筒はいきとうを内側から切断する内周切断
装置そうち。岡井さんがれているのが、
苦労してつくったボックスだ

ロボットの遠隔操作えんかくそうさ室として利用する
車両には、子供こどもたちがえがいた絵がある。
子供こどもたちの未来を考えながら、日々の
仕事に取り組む

岡井さん:

 私たちの名刺めいしには「不可能を可能に!」というメッセージが印字されています。この言葉の通り、だれも経験していないこと、みんなが「無理じゃないか」と思うようなことに積極的に取り組んできました。それは、今回のプロジェクトにもいえることです。以前、私たちは同じ1・2号機の排気筒はいきとうの下にたまった水の排水はいすい業務を任されました。高線量のため容易に近づけない非常にむずかしい仕事でしたが、当社から「こうすればできる」というプランを提案してプロジェクトを完遂かんすいさせました。このときは、クレーンに取り付けた3Dスキャンカメラで現状を把握はあくし、遠隔操作えんかくそうさロボットなどを活用して排水はいすい作業を行いました。こうした提案力も、強みの1つではないかと考えています。

佐藤さん:

 私たちはメーカーではなく、工事やメンテナンスなどのプロです。例えば、ロボットをつくる際には、「この工事で使うロボットにはどんな機能が必要か」を考えて、国内外の様々なロボットを検討けんとうします。世界中のロボットの中で最適なものを選んで、そこにアイデアや工夫を加えた上で工事用のロボットをつくっています。また、会社の規模きぼが小さいので、各グループ間の調整もしやすい。それが対応するスピードの速さにもつながっていると思います。

岡井さん:

 チャレンジの文化と同時に、アットホームなところもあります。例えば、排気筒はいきとうの解体作業の遠隔操作室えんかくそうさしつとして利用するバスの側面には、社員の子供こどもたちの絵がえがかれています。それを見れば、だれしも「子供こどもたちの未来のために、妥協だきょうした仕事はできない」と思うのではないでしょうか。バスの絵には、そんな想いがめられています。また、先日は休日に社員の家族を招いて感謝祭を開きました。「お父さんはこういう仕事をしているんだよ」と、子供こどもたちに見てもらいたかったからです。ロボットの動く様子を見たり、クレーンの操縦席そうじゅうせきすわったりして、子供こどもたちは大喜びでした。

福島の復興にかける思いをお話しください。

解体装置かいたいそうちをクレーンでり下げ、ロボットを遠隔えんかく操作そうさして各部位を切断する

中根さん:

 私はいわき市に住んでいて、震災しんさいのときは小学生でした。「これからどうなるんだろう」と漠然ばくぜんとした不安を感じていました。当時は、将来しょうらい自分が廃炉はいろに関わる仕事をするようになるとは想像もできませんでしたが、学生時代に学んだロボットや機械の分野で廃炉はいろたずさわることを通じて地域ちいきの復興に役立ちたいと思いました。えんの下の力持ちとして、プロジェクトの安全な進行を支えることができればうれしいですね。

佐藤さん:

 まずは目の前の仕事に集中して、一つひとつのステップをクリアしていきたいと思っています。大勢の人たちが一歩ずつ前進することが、福島の復興につながるはずです。30年、40年後、多くの仲間と一緒いっしょに自分たちが関わったプロジェクトのことを思い出して語り合えるような日が来るといいと思っています。

岡井さん:

 震災しんさいから8年以上が経過していますが、まだ地元にもどっていない方々もいます。そうした人たちが安心してもどってこられるような環境かんきょうづくりに、少しでも貢献こうけんできればと思います。

岡井勇さん

岡井おかい いさむさん

福島県外の出身だが、仕事のために福島に赴任ふにん。当地で結婚けっこんし、30年にわたって福島で過ごしている。現在、いわき市に在住。子供こどもたちの住む東京に遊びに行って、孫の顔を見るのが楽しみ。

佐藤哲男さん

佐藤さとう 哲男てつおさん

浪江町出身で、現在はいわき市に住んでいる。最近、犬を飼い始めた。その犬を散歩に連れていったり、世話の仕方を子供こどもたちに教えたり。2人の子供こどもたちとは、バトミントンや卓球たっきゅうなどで遊ぶことも多い。

中根瑞貴さん

中根なかね 瑞貴みずきさん

いわき市出身。地元の工業高校を卒業後、2018年4月に入社。自動車の免許めんきょを取得したばかりで、休日にはよくドライブにでかける。少し遠出をして、カフェめぐりなどを楽しんでいる。

どんなプロジェクトでも、安全を最大限に配慮はいりょし、みなさまにご安心いただけるような作業をすすめていきます。今後も廃炉はいろに向けて全力で取り組んでいきます。

プロフィール
岡井おかい いさむさん

福島県外の出身だが、仕事のために福島に赴任ふにん。当地で結婚けっこんし、30年にわたって福島で過ごしている。現在、いわき市に在住。子供こどもたちの住む東京に遊びに行って、孫の顔を見るのが楽しみ。

佐藤さとう 哲男てつおさん

浪江町出身で、現在はいわき市に住んでいる。最近、犬を飼い始めた。その犬を散歩に連れていったり、世話の仕方を子供こどもたちに教えたり。2人の子供こどもたちとは、バトミントンや卓球たっきゅうなどで遊ぶことも多い。

中根なかね 瑞貴みずきさん

いわき市出身。地元の工業高校を卒業後、2018年4月に入社。自動車の免許めんきょを取得したばかりで、休日にはよくドライブにでかける。少し遠出をして、カフェめぐりなどを楽しんでいる。

お勤め先

株式会社エイブル

1992年設立。97年本社を福島県双葉郡大熊町に移転。震災しんさいにより本社機能を広野町に移している。火力・原子力発電を中心に各種プラント設備の建設、設計・開発を主に行う。

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